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Japanische Klassiker mit Furigana

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かごつるべ

江戸情話集

岡本 綺堂

Lesen Sie 江戸情話集 (かごつるべ) von 岡本 綺堂 (おかもときどう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 203.779 Zeichen · 407 Bildschirme

Aozora Bunko

彼女は自分を振り捨ててゆく男を微塵も怨む気はなかった。

怨むのではない。ただ、悲しいのである。心細いのである。店出し以来、たった一人の半九郎に取りすがって、今日まで何の苦も知らずに生きていたお染は、さてこの後どうするか。彼女は眼の前に拡がっている大きい闇の奥をすかして見る怖ろしさに堪えられなかった。

「また泣くか。初めて逢った夜にもお前はそんな泣き顔をしていたが、その時から見ると又やつれたぞ。煩わぬようにしろ」

「いっそ煩うて死にとうござります」

言ううちにも、止めどもなしに突っかけて溢れ出る涙は、白粉の濃い彼女の頬に幾筋の糸を引いて流れた。半九郎は痛ましそうに眉を皺めて言った。

「今の若い身で死んでどうする。両親の悲しみ、妹の嘆き、それを思いやったら仮りにもそのようなことは言われまい。一日も早く勤めを引いて、親許へ帰って孝行せい」

「一日も早くというて、それが今年か来年のことか。ここの年季は丸六年、わたしのような孱弱い者は、いつ煩ろうていつ死ぬやら」

「はて、不吉な。気の弱いにも程がある。ほかの女どものように浮きうきして、晴れやかな心持ちで面白そうに世を送れ。