Japanische Klassiker mit Furigana
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あざらしとう
海豹島
久生 十蘭
Lesen Sie 海豹島 (あざらしとう) von 久生 十蘭 (ひさおじゅうらん) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 24.311 Zeichen · 48 Bildschirme
私は恐怖の念にかきたてられ、窓のそばへ走って行って、薄光りする窓ガラスに顔をうつして見た。
雪花をつけて凍みあがったガラスの面に浮かびあがったのは、まさしく膃肭獣の顔であった。顱頂は平らべったくなり、鼻は顔に溶けこみ、耳はこめかみに貼りつき、唇は耳のほうまで不気味にひきつれている。
「やられた」
私は絶望して土間に坐りこみ、妻や、子供や、親しい友人の名をかわるがわるに呼びながら、声をあげて泣きだした。不思議にも、私の舌は上顎の裏に貼りついたようになり、なにか喋言ろうと焦れば焦るほど、あさましい咆哮になってしまうのだった。
泣き疲れて、いつの間にか眠ってしまったのだと見える。眼をさますと、もう夕方近くになっていた。
悲しい夢を見ていた。私は月の渚で、美しい一匹の牝と無心に戯れていた。銀の縁取りをした黒檀色の波がたえず足もとに寄せてはかえし、湿った海風に海草や馴鹿苔の匂いがほのかにまじっていて、快く睡気をさそった。広い渚に何万とも知れぬ膃肭獣が匍ったり蠢めいたりし、濡れた身体に月の光が反射して発光虫のように燐色に光る。それが交錯して、蒼白い陽炎がゆらめくように見えるのだった。