Japanische Klassiker mit Furigana
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あざらしとう
海豹島
久生 十蘭
Lesen Sie 海豹島 (あざらしとう) von 久生 十蘭 (ひさおじゅうらん) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 24.311 Zeichen · 48 Bildschirme
腹部をあらためて見たが、どこにも縫合のあとはなく、生温い体温とじっとりとした膏じめりが掌につたわったばかりであった。まぎれもなく、現実の膃肭獣であった。美しいセピア色の密毛の下に感じられるのは、モッタリとした脂肪層と膃肭獣特有の骨格で、鰭を動かすたびにかすかに関節が音をたてた。膃肭獣は鰭をバタバタさせ、私の手から逃れようと藻掻いていたが、口腔の奥まで見えるほど大きな口をあけて威嚇したのち、つと顔をのばして私の手を強く噛んだ。口の中に牡丹の花弁のような赤い舌が見えた。
土間に駆け戻ると、昂奮も焦慮も一挙に醒めはて、途方に暮れたような気持で木箱の上に坐りこんでいた。もとはといえば、土間の花簪と柱暦に巻き込まれていた女の髪の毛から始まったことだった。が、考えて見ればその花簪は島の誰かが馴染みの娼婦からでも貰って来たのかも知れず、柱暦の日附も、昨年のものだとする理由はどこにもない。一昨年のかも一昨々年のかも知れなかった。
私は安堵と疲労と同時に感じ、この島へ来て以来、はじめて熟睡した。どのくらい眠ったか知らないが、騒がしい音で眠りからさまされた。狭山が悲痛な声で膃肭獣の名を呼びながらあわただしく走りまわっている。