Japanische Klassiker mit Furigana
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かいなんき
海難記
久生 十蘭
Lesen Sie 海難記 (かいなんき) von 久生 十蘭 (ひさおじゅうらん) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 28.628 Zeichen · 56 Bildschirme
なにか丸いものが流れ寄ってきた。それは樽だった。ゲランがそれにしがみついたとき、高い岸波がうちあげてきて、人と樽を沖へ引いて行った。ゲランは樽を抱えて波と戦った。この争いは夜明けまでつづいた。朝になったところで、波の方向を見定めてすこしずつ岸のほうへ泳ぎ、やっとのことで渚に這いあがった。
妻の死体を置いたところへ行ってみると、クロチルドの身体は残りなく猛獣に啖いつくされ、血に染んだ白髪の頭だけが残っていた。
この世で出逢うとも思わない無残な光景を眼にして、ゲランはひと時気を失って倒れていたが、間もなく意識をとりもどすと、妻の首を膝に抱きあげて呟いた。
「おれは、この長い時間、大洋の波と戦って命を守りとおしたほどの男だから、この世で誰よりも愛していた妻の遺物を、見捨てないだけの勇気だって持てるはずだ」
ゲランは襯衣を裂いて情けない遺物を包み、ひと休みしてから、一人で沙漠を歩きだした。
ゲランはアラビヤ人に捕まって、奴隷にされ、種属から他の種属へつぎつぎに売り渡されてはげしい労働を強いられたすえ、三月目にやっとのことでサン=ルイに辿り着いた。その腰には襤褸布に包んだ異様なものがぶらさがっていた。