Japanische Klassiker mit Furigana
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しせい
消えた受賞作 直木賞編
富田 常雄
Lesen Sie 消えた受賞作 直木賞編 (しせい) von 富田 常雄 (とみたつねお) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 17.806 Zeichen · 36 Bildschirme
ミチは超然として蛇口の前に突立ち、ざあざあと手桶の湯を幾杯となく浴びる。女達はその傍若無人に少しの表立った抗議もせず、身をずらせて、この無体な湯の飛沫から逃れながら、なかば、惚れぼれとして、ミチの白い肉体を見上げる。
ミチは彼女の肉体が素晴らしく均整のとれた美しさと、類い稀れな色白であることを充分に承知して居るのだ。更らに、その雪の肌に彫られた刺青が如何に見事であり、人々の眼を奪うものであるかも承知して居る。この、世の中の荒波に打ち挫がれ、子供を生み、肉体を疲らせ衰えはてて死んで行くに違いない、有り来りの古臭い女共に彼女の美を誇ってやるのだ。
風呂屋の女客はミチのただものでない事を、その肉体と挙動から察して、言い掛りをつけられない様に脇へ寄りながらも、好奇と奇異の眼をみはり、子供達はしげしげと彼女の裸身に近づいて見るのだが、母親は、この餓鬼! 妾は見世物じゃねえぞと、ミチに怒鳴られ、撲られはしまいかとはらはらしながら子供達を叱り、その体を抱きかかえるのである。
奥に通じる三尺の硝子戸は開けられたままであった。番頭の藤三は湯釜の上に胡坐を掻き、裸の胸に両腕を組んで漠然とした眼を流し場に向けて居たが、ぎょっとした様に表情を硬くし、眼をしばたたくと片唾を呑んだ。