Japanische Klassiker mit Furigana
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しぶやけのしそ
渋谷家の始祖
宮本 百合子
Lesen Sie 渋谷家の始祖 (しぶやけのしそ) von 宮本 百合子 (みやもとゆりこ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 68.023 Zeichen · 133 Bildschirme
その愛した夫人を、彼が如何様にして失ってしまったか、これは、正隆にとって、思い出すのさえ苦痛な疵痕(きずあと)であった。彼が眠薬を飲まされて、うつらうつらと夜昼のけじめもなく睡っていた間に、万事を取定めて、現れたと同様の突然さで彼の許から永劫に去ってしまった信子夫人を、正隆は、どうしても、忘れること、諦めること、生活の圏外に放擲することは出来ない。それは、十六年前の、当時がそうであったと同様に、今もなおそうである。
ただ、嘗ては楽園の使者のように見えた彼女を、今は、呪咀された運命の手先だったのだ、と仮想することに依って、正隆は辛うじて、息を吐くのである。
若し、信子夫人が彼を今もなお愛し、慕い、求めている心の麗わしい、魂の輝やいた女性だとしたら、一体、自分は、どうしたら好いのだ? これが、あの当時から正隆の絶えざる恐れである。若し、彼女がそうであるとしても、正隆は、一旦自分の胸から引離されたものを追って、更に完全な奪略を仕返すほどの力を持たないことを自覚してもいたし、また一面からいうと、それは彼の自負心を赧らませることでもある。信子夫人は忘れられない。