Japanische Klassiker mit Furigana
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おぼるるもの
溺るるもの
豊島 与志雄
Lesen Sie 溺るるもの (おぼるるもの) von 豊島 与志雄 (とよしまよしお) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 17.690 Zeichen · 36 Bildschirme
「また……いやよ。悪口云おうと思って……。」
鏡台を押しやって彼女は笑った。
淋しい静かな笑いを彼女は持っていた。薄い眉と二重眼瞼と細そり高い鼻とはそのままに、少しつき出し加減の薄い唇を中心としてる線のなだらかな細面の下半分に浮べる、その淋しい静かな笑いには、気心を置かない時には、或る哀切な弱々しさが加わり、会った初めに、「いらっしゃい。」と形ばかりの挨拶の後の時には、或る一本気な強さが加わった。
後になって、その笑みが彼女の眼にまで拡がってきた時、私は何だかそれに応じて微笑めないようなものを感じた。
そうした彼女の方へ足繁く通いながら、掘割の縁で、私は幾度か夢想に沈んだ。
掘割の水はいつも濁っていた。水面まで泥深く油ぎって、どんよりと湛えていた。濁った水というよりも、一種の溶解液だった。あらゆるものが、混入しているのではなく溶けこんで、腐敗醗酵のも一歩先に出ていた。その重々しい表面はゆるぎもなく、昼間は太陽の光を吸いこみ、夜分は街燈の光をはね返していた。
あちこちに、一二艘の荷足舟がもやっていた。けれども私は嘗て、その舟の動いてるのを見たこともなければ、舟の中に人影を認めたこともない。