Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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おぼるるもの

溺るるもの

豊島 与志雄

Lesen Sie 溺るるもの (おぼるるもの) von 豊島 与志雄 (とよしまよしお) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 17.690 Zeichen · 36 Bildschirme

Aozora Bunko

顔色は悪いが、案外しんが丈夫らしかった。いつも酒を飲んだが、本当に酔うことはなさそうだった。あたしを相手にしてるが、別なことを見守ってるようだった。そしてただ、その辺の空気を吸いに来てるような調子だった。あたしには息苦しい空気だったが、その空気を吸わないではおられないといったように、しきりに通ってきた。これから暫く来ないよと云って帰りながら、またすぐにやって来た。そしてあたしも、あの人の空気を吸わないではおられなかった。あの人の側にいると、自由でのんびりして、心の中が明るくなった。あの人が暫く姿を見せないと、あたしは暗いところへだんだん落ちこんでゆくような気がした。あの人と別れぎわには、あたしは泣くことを覚えた。

「女は泣く時には本当のことは云わない。男は涙を流す時には決して嘘をつかないが、女はあべこべだ。女が本当のことを云うのは、怒った時だけだ。」

そんなことをあの人は云った。そして自分で涙ぐんでいた。

お店で、側についてる姉ちゃんの言葉にいい加減な返事をしながら、あたしはやはりあの人のことをぼんやり考えていた。

最初の時は夜だった。いつもの通りお店に出てると、黒いマントを着た背の高い人が通りかかった。