Japanische Klassiker mit Furigana
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いちろうじん
犬田卯短編集二
犬田 卯
Lesen Sie 犬田卯短編集二 (いちろうじん) von 犬田 卯 (いぬたしげる) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 51.383 Zeichen · 103 Bildschirme
沼がつきて、溢水の落ちる堰のほとりに二三の飲食店があるが、その手前まで来たとき、お通は思いきり端折っていた裾を下ろすために立ち止り、帯の間へ手をやった。そしてふと、そこに挟んであるはずの蟇口をさらにしっかと挟みかえようとすると、それが無い。
「おや!」彼女は口走った。どきんと一つ心臓が打った。それからどきどき、どきどきと一層早く打ちはじめた。たしかに家を出るとき固くそこへ挟んで、ぽんぽんと二度もその上を叩いたのだった。彼女はさらにふかく手を差入れ、同時に横の方も探ってみたが、やはりどこにも見当らない。底抜けになって下へ落ちる理由はどう考えてもないのである。帯締めだってきちんと結ばれているし、落したとすれば、道を急いだために、蟇口自身がひとりでに浮き上って、そして知らぬ間に零れたに相違なかった。
しかしお通はたといどんなに夢中で歩いていようと、それを感づかずにしまうほど自分が不注意の腑抜けであるはずはないと思い、もう一度懐中をさぐり袂をさぐり、抱えていた風呂敷包みまで解いてみた。が、やはりどこにも発見されない。その蟇口には十円紙幣一枚と五円一枚、それから五十銭や十銭一銭など十数個入っていたのだった。