Japanische Klassiker mit Furigana
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いちろうじん
犬田卯短編集二
犬田 卯
Lesen Sie 犬田卯短編集二 (いちろうじん) von 犬田 卯 (いぬたしげる) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 51.383 Zeichen · 103 Bildschirme
――失礼だが、この金時計買ってくれまいかね。僕はね、今日運が悪くて五百円ばかりすっちまったんだ。東京へかえる汽車賃も、子供らへ買って行く土産代も、何もかも、本当に一文なしになっちまったんだ。実に弱っちまった……。
紳士はつくづくと悲観した。
――これ、君、鎖とも五円でいいよ。じつは買う時は八十円したんだがね。天賞堂の保険つきだから確かなもんだ。つぶしにしたって三十円――いや五十円はある。なにしろいま地金の騰貴している時だからね。この町の時計屋へ持って行ったって三十円は欠けまいと思うよ。君、僕を助けると思って取ってくれないかね。
紳士はどっしりした金時計と鎖とを仙太へ突きつけた。びっくりして見つめた仙太の眼は、夕陽にかがやくその山吹色のためにくらくらと眩めいた。
――弱ったな、僕はこの汽車で帰らないともう汽車がないんだ。あと十分しかないんだが……じつに弱っちまったな。
仙太は五円のぼろ札を出して金時計を受取った。タカムラに張りそこなったやつを、この金時計――降って湧いたような――で取りかえそうとふと考えたのだ。それにまた立派な紳士が五百円もすってしまって家へかえれない! さぞかし彼の家にも、自分の女房のような口喧しい細君が、神経を尖らして待っているのであろう。