Japanische Klassiker mit Furigana
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ごくちゅうへのてがみ
獄中への手紙
宮本 百合子
Lesen Sie 獄中への手紙 (ごくちゅうへのてがみ) von 宮本 百合子 (みやもとゆりこ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 215.557 Zeichen · 426 Bildschirme
一人の白い装をした淑女が、だれもつれず、こまかい砂利をしきつめた道にわが影だけを従えてゆるやかに歩いてゆきます。ゆく手は庭園の一隅で、こちらから見たところ糸杉がきっちり刈りこまれ夏の大気に芳しく繁っているばかりです。白い姿はその緑の芳しい牆のかげに消えますが、そこ迄行ってみると、糸杉は独特な垣をなしていて、丁度屏風をまわした工合に、一つからもう一つへと白い影を誘い、やがて一つの唐草模様の小さい扉まで導きます。白い装いの人は、永い病気から恢復して、はじめてこの午後の斜光の中を愛する園を訪れたのですが、美しい柔かい旋律のうたは、この扉を今開こうとするときの堪えがたい期待と、あまりの美しさが、自分をうちまかしはしまいかというよろこばしいおそれとからうたいはじめられています。
扉は開こうとし、しかし未だ開かれません。何が扉の蝶番を阻むのでしょう。園の花の息づきはつよくあたためられた大気にあふれてもう扉を押すばかりですし、唐草格子のすき間から眺められるのは、ほかならぬ愛蔵の蘭の花です。それは蘭の花の園なのでした。
金色にあたたまり溶ける光の中に花頭をもたげ、見事な花柱を立てて、わが蘭の花はいのちの盛りに燃えているのを、白いなりのひとは知っています。