Japanische Klassiker mit Furigana
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たまつきばのいちぐう
球突場の一隅
豊島 与志雄
Lesen Sie 球突場の一隅 (たまつきばのいちぐう) von 豊島 与志雄 (とよしまよしお) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 14.111 Zeichen · 29 Bildschirme
おたかも澄ましていた。で松井は苛ら苛らして来た。やってることが林やおたかに分らない筈はないと思った。彼は興奮した眼を突棒の先に注いだ。そしてゲームを突き切った時、突棒を捨てた。
「今日は大変当りがお悪いですね。」とおたかが林に云った。
「ええ駄目です。」と林は平気でいた。
松井はすぐに帰る仕度をした。
「まだお宜しいじゃありませんか。」
「いや少し急ぐから。」
松井が表に出ようとした時、おたかが其処に駈けて来た。
「またあしたどうぞ。」と囁くように云って彼女はじっと松井の眼の中を覗いた。
外にはまだ雨が降っていた。軒影や軒燈の光りがしっとりと濡れていた。松井は急に肌寒い思いをしながら、傘の下に身を小さくして歩いた。
彼の心は興奮したまま佗びしい色に包まれた。凡てのことが何かの凶兆を示すように思えて来た。そして彼は泥濘の上に映った足下の灯を見て歩きながら、おたかの顔を思い浮べた。今日初めて気が附いたあの肉感的な頬の魅力が眼の前にちらついた。然しそれは、苛ら苛らした興奮や、一種の敵意や、漠然とした佗びしさの被を通して見た情慾であった。
彼は顔の筋肉を引きしめながら、眼を上げて雨中の街路をすかし見た。