Japanische Klassiker mit Furigana
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せいあらば
生あらば
豊島 与志雄
Lesen Sie 生あらば (せいあらば) von 豊島 与志雄 (とよしまよしお) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 23.046 Zeichen · 47 Bildschirme
壮助は手紙と金とを懐にしてそのまま表に飛び出した。郵便局で為替を組んでそれを出すと、初めて一日のことが顧みられた。
空を仰ぐともはや日脚が西に傾いていた。彼は一寸足を止めて、飢えたる犬のようにあたりをじろりと見廻したが、また急に羽島さんの家の方へ歩き出した。そして心の中で、「光子! 光子!」と叫んだ。眼が湿んできた。
五
怪しい誘惑がいつしか壮助の心に蜘蛛の糸のように絡みついて来た。机に向っていてもふと気をゆるめると、彼の耳はじっと階下の物音に澄されていた。そして彼の眼の前には老婆の赤黝い顔が浮んだ。彼女は障子の側の火鉢によりかかるようにして坐ったまま、あたりをじろじろ見廻している。その丁度膝に当る畳の下に、夜彼女の枕が置かれる所に、古ぼけた欝金木綿の袋があって、その中に銀行の通帳とまた新らしい紙幣とがはいっている。じっと空間を見つめている壮助の眼は熱くほてってきた。
それは必ずしも盗みの心持ちではなかった。然し一歩ふみ出せば、そして一度ふみ出したら、もう後へは引返されそうになかった。
じっと物のすきを狙っていて其で妙におずおずした老婆の眼を、壮助は自分のまわりに見出した。