Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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せいしまんじどもえ

生死卍巴

国枝 史郎

Lesen Sie 生死卍巴 (せいしまんじどもえ) von 国枝 史郎 (くにえだしろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 91.598 Zeichen · 182 Bildschirme

Aozora Bunko

「有難い、この部屋にも客がない」

しかしそれでも不安心と見えて、廊下に向かった障子をあけると、顔を差し出して左右を見た。

「よし」――で、引っ返し、二度行燈の側へ坐り、両手を袂から懐中へ入れた。

取り出したのは小箱であったが、真に美しい鯖色の光が、小箱の中から射るように射して、部屋を瞬間に輝やかした。

小箱の中を覗いている、老武士の顔の嬉しそうなことは!

この老武士は何者であろう?

他ならぬ松平碩寿翁であった。

それにしても何のためにこのような所へ、碩寿翁ともある人が、供も連れずに来たのであろう?

それには怪奇な事情がある。

根津仏町勘解由店の刑部屋敷の露地口で、京助という手代から、一個の品物を奪い取って以来、碩寿翁は蠱物にでも憑かれたかのように、心が絶えず動揺し、心が恐怖に襲われた。

時にはこんなように口走ったりした。

「あのお方があんな所にいられようとは! ……俺はとうとう感付かれてしまった。……俺に恐ろしいはあのお方ばかりだ。俺は体を隠さなければならない」

で、恐怖に耐えられなくなって、江戸を発足したのであった。

「長崎へ行こう! 長崎へ行こう!」