Japanische Klassiker mit Furigana
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たはらしのはんざい
田原氏の犯罪
豊島 与志雄
Lesen Sie 田原氏の犯罪 (たはらしのはんざい) von 豊島 与志雄 (とよしまよしお) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 27.957 Zeichen · 57 Bildschirme
「そうねえ、六月でこんなだから。」
「今年は皆で山へ出かけようではありませんか。」
「私も何処かへ出かけたいと思っていますがね。でも同じ行くなら海の方がよくはありませんか。」
「海は頭が悪くなっていけませんよ。」
「また頭ですか。」そう云ってしげ子は眼を挙げて重夫の顔を見た。「お前さんはいつも頭のことばかり心配していますね。」
「それは僕等のような若い時は、頭が一番大切なんですから。」
その時二階の梯子段に足音がした。父が下りて来るのであった。それをきくと二人共妙に口を噤んでしまった。然しそれは別に父を憚ってではなかった。自然に二人の心がそちらへ引きつけられたからである。
父は重い足どりで歩いて来て二人の所へ顔を現わした。
「お眼覚めですか。」としげ子が云った。
「ああ。」
「今日はわりにお早いんですね。」と重夫が云った。
「それでもぐっすり寝入ってしまった。昼寝はよくそして短く眠るに限るね。」
然し乍ら、田原さんは如何にも陰欝な顔をしていた。濃い眉根から広い額へかけて、彼がいつも怒った時に示すようなかすかな竪皺が寄っていた。そして長く濃い口髯に半ば隠された口元には、意力の欠乏を示す空虚が漂っていた。