Japanische Klassiker mit Furigana
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いなかいしのこ
田舎医師の子
相馬 泰三
Lesen Sie 田舎医師の子 (いなかいしのこ) von 相馬 泰三 (そうまたいぞう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 37.947 Zeichen · 76 Bildschirme
何はともあれ、お母さんにこの端書を見せねばならぬと彼女は思うた。そして一刻も早くこの忌わしい事件を根絶してしまわねばならぬと思うた。……しかしそんな事を自分勝手にやっては兄さんに悪るくはあるまいかとも思うた。咄嗟の間にいろいろと迷うた。……と、今度はこの端書がここへ来るまでに多くの人の目に露された事を思うた。大勢の人がすでにこの事を知ったような気がされた。そして、むろん、さっきこれを配達して来たあの男もこれを読んだに相違ないと思った。――こうなっては、もう今は一刻も猶予していられる時でないと、深く決心して彼女は急いで母の居間へやって来た。そして黙ってその端書を母の前へつき出した。
母は、それを受取って一通りずーっと目を通すと、何も云わずにそれを自分の針箱の中へ納めて、そのあとですぐにまた、針仕事に取りかかりそうにした。別に驚いた様子もなかった。まるで出入の呉服屋から来た端書を見た時くらいの表情しか見ることができなかった。
房子は、母の心をはかりかねて、いかにも不安そうに、
「お母さん!」こう呼びかけた。
「はい。」
母の声は、いつもに変るところなく少しの濁りもなかった。