Japanische Klassiker mit Furigana
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ぎわく
疑惑
Lesen Sie 疑惑 (ぎわく) von Akutagawa Ryūnosuke (芥川 竜之介) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 12.341 Zeichen · 25 Bildschirme
それは御影の手水鉢の上に枝を延ばしている木蓮が、時々白い花を落すのでさえ、明に聞き取れるような静かさだった。毎日午前だけ講演に行った私は、午後と夜とをこの座敷で、はなはだ泰平に暮す事が出来た。が、同時にまた、参考書と着換えとを入れた鞄のほかに何一つない私自身を、春寒く思う事も度々あった。
もっとも午後は時折来る訪問客に気が紛れて、さほど寂しいとは思わなかった。が、やがて竹の筒を台にした古風なランプに火が燈ると、人間らしい気息の通う世界は、たちまちそのかすかな光に照される私の周囲だけに縮まってしまった。しかも私にはその周囲さえ、決して頼もしい気は起させなかった。私の後にある床の間には、花も活けてない青銅の瓶が一つ、威かつくどっしりと据えてあった。そうしてその上には怪しげな楊柳観音の軸が、煤けた錦襴の表装の中に朦朧と墨色を弁じていた。私は折々書見の眼をあげて、この古ぼけた仏画をふり返ると、必ずきもしない線香がどこかでっているような心もちがした。それほど座敷の中には寺らしい閑寂の気が罩っていた。だから私はよく早寝をした。が、床にはいっても容易に眠くはならなかった。