Japanische Klassiker mit Furigana
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くじょしょうろく
痀女抄録
矢田 津世子
Lesen Sie 痀女抄録 (くじょしょうろく) von 矢田 津世子 (やだつせこ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 32.578 Zeichen · 65 Bildschirme
ちょうど、茶をはこんできた寿女は、何事かと立ちつくしていたが、釣られて、つい貰い笑いをした。
この奥住の家にきてから寿女は、だんだん燥ゃぎ出すようになった。数寄屋町時代の、おどけたことを言うては人を笑わせてばかりいた寿女に戻ったようであった。龍子の弟子たちが稽古をすませて寛いでいるところへ、菓子などをはこんで行って、よく、こんな冗談を言う。
「わたしなんか、生まれつきの、とってもいい声なんですけれどねえ。惜しくって、みんな、この袋の中に納まい込んでありますの」
そして、盛り上った背を得意気にゆすぶってみせたりする。
はじめのころは言葉もかけなかった令嬢たちも、次第にうち解けて、こんな冗談をきくたびにキャッキャッと笑って、「おもしろいせむしさん」だと評判し合った。
寿女は刺繍にかかり詰めるようになった。夜ふけて、ふと眼ざめた龍子が、灯りのついている女中部屋を訝かって覗いてみると、枠におしかぶさって寿女が針を刺している。声をかけても気付くふうもなく、ただ、ひたむきに刺している。その容子のただならぬ一途さに、ふと、異様なものを見る気がして、龍子は怖気立つときがあった。