Japanische Klassiker mit Furigana
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びょうしつのげんえい
病室の幻影
豊島 与志雄
Lesen Sie 病室の幻影 (びょうしつのげんえい) von 豊島 与志雄 (とよしまよしお) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 5.426 Zeichen · 11 Bildschirme
闇に呑み込まれてしまうばかりだ。それがどうして悲しまずにいられよう。
A――それら一切のものが、闇に呑まれようとどうしようと、そんなことはどうでも構わない。生きてる間だけ十分に生きてた、という意識だけで俺には十分なのだ。
B――俺が今茲で死んだなら、俺自身に関する一切のものは、永久にこの世から亡びてしまうのだ。幾億万の人間が生れて来ようと、俺自身と同じものは何一つ世に現われはしないだろう。
A――そういう風に唯一無二にこれまで生きてきた、という意識だけで俺には十分なのだ。
B――其処に俺の看病に疲れて眠ってる妻は、俺が死んだらどうなるだろう、それから、子供や、両親も……。皆が俺を頼りにしているのだ。
A――彼等は、俺が死んだら一時悲しみはするだろう。然し俺の身体が清らかな灰になり、石碑の下に納められる時、彼等は生死を超越した神聖な朗かさを、涙のうちに感ずるに違いない。そして俺が亡い後、両親は年老いており、子供は幼いし、妻はか弱い身であるけれども、確に餓死するようなことはなく、自分の力でどうにか生きてゆくだろう。そしてこの、人に頼らず自分の力で生きてゆくということが、他の何物よりもよく、彼等に人生の深い味を味わせるだろう。