Japanische Klassiker mit Furigana
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ちじんのあい
痴人の愛
谷崎 潤一郎
Lesen Sie 痴人の愛 (ちじんのあい) von 谷崎 潤一郎 (たにざきじゅんいちろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 179.399 Zeichen · 353 Bildschirme
「お父つぁんはもう居ないの」
「おッ母さんは?」
「おッ母さんは居るけれど、―――」
「じゃ、兄弟は?」
「兄弟は大勢あるわ、兄さんだの、姉さんだの、妹だの、―――」
それから後もこんな話はたびたび出たことがありますけれど、いつも彼女は、自分の家庭の事情を聞かれると、ちょっと不愉快な顔つきをして、言葉を濁してしまうのでした。で、一緒に遊びに行くときは大概前の日に約束をして、きめた時間に公園のベンチとか、観音様のお堂の前とかで待ち合わせることにしたものですが、彼女は決して時間を違えたり、約束をすっぽかしたりしたことはありませんでした。何かの都合で私の方が遅れたりして、「あんまり待たせ過ぎたから、もう帰ってしまったかな」と、案じながら行って見ると、矢張キチンと其処に待っています。そして私の姿に気が付くと、ふいと立ち上ってつかつか此方へ歩いて来るのです。
「御免よ、ナオミちゃん、大分長いこと待っただろう」
私がそう云うと、
「ええ、待ったわ」
と云うだけで、別に不平そうな様子もなく、怒っているらしくもないのでした。或る時などはベンチに待っている約束だったのが、急に雨が降り出したので、どうしているかと思いながら出かけて行くと、あの、池の側にある何様だかの小さい祠の軒下にしゃがんで、それでもちゃんと待っていたのには、ひどくいじらしい