Japanische Klassiker mit Furigana
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ちじんのあい
痴人の愛
谷崎 潤一郎
Lesen Sie 痴人の愛 (ちじんのあい) von 谷崎 潤一郎 (たにざきじゅんいちろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 179.399 Zeichen · 353 Bildschirme
と呼ぶのを聞くと、むしずが走るほどイヤだったのです。
「おい! お前は熊谷と関係があったんだろう? 正直のことを云っておしまい!」
「関係なんかありゃしないわよ、そんなにあたしを疑ぐるなら、証拠でもあるの?」
「証拠がなくっても己にはちゃんと分ってるんだ」
「どうして?―――どうして分るの?」
ナオミの態度は凄いほど落ち着いたものでした。その口辺には小憎らしい薄笑いさえ浮かんでいました。
「昨夜のあのざまは、あれは何だ? お前はあんなざまをしながらそれでも潔白だと云える積りか?」
「あれはみんながあたしを無理に酔っ払わして、あんななりをさせたんだもの。―――ただああやって表を歩いただけじゃないの」
「よし! それじゃ飽くまで潔白だと云うんだな?」
「ええ、潔白だわ」
「お前はそれを誓うんだな!」
「ええ、誓うわ」
「よし! その一と言を忘れずにいろよ! 己はお前の云うことなんか、もう一と言も信用しちゃいないんだから」
それきり私は、彼女と口をききませんでした。
私は彼女が熊谷に通牒したりすることを恐れて、書簡箋、封筒、インキ、鉛筆、万年筆、郵便切手、一切のものを取り上げてしまい、それを彼女の荷物と一緒に植惣のかみさんに預けました。