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Japanische Klassiker mit Furigana

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ちじんのあい

痴人の愛

谷崎 潤一郎

Lesen Sie 痴人の愛 (ちじんのあい) von 谷崎 潤一郎 (たにざきじゅんいちろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 179.399 Zeichen · 353 Bildschirme

Aozora Bunko

私はよく、彼女の芳わしい息の匂を想い出して、虚空に向って口を開け、はッとその辺の空気を吸いました。往来を歩いている時でも、部屋に蟄居している時でも、彼女の唇が恋しくなると、私はいきなり天を仰いで、はッはッとやりました。私の眼には到る所にナオミの紅い唇が見え、そこらじゅうにある空気と云う空気が、みんなナオミのいぶきであるかと思われました。つまりナオミは天地の間に充満して、私を取り巻き、私を苦しめ、私の呻きを聞きながら、それを笑って眺めている悪霊のようなものでした。

「譲治さんはこの頃変よ、少うしどうかしているわよ」

と、ナオミは或る晩やって来て、そう云いました。

「そりゃあどうかしているだろうさ、こんなにお前に懊らされりゃあ、………」

「ふん、………」

「何がふんだい?」

「あたし、約束は厳重に守る積りよ」

「いつまで守る積りなんだい?」

「永久に」

「冗談じゃない、こうしていると己はだんだん気が変になるよ」

「じゃ、いいことを教えて上げるわ、水道の水を頭からザッと打っかけるといいわ」

「おい、ほんとうにお前………」

「又始まった! 譲治さんがそんな眼つきをするから、あたし尚更からかってやりたくなるんだわ。