Japanische Klassiker mit Furigana
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しろあり
白蟻
小栗 虫太郎
Lesen Sie 白蟻 (しろあり) von 小栗 虫太郎 (おぐりむしたろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 54.099 Zeichen · 106 Bildschirme
すると、時江の声が、それなりちょっと杜絶えたかと思われたが、やがてぞくぞくと震えだしてきて不審なことに、彼女は酔いしれたように上気してしまった。
「いいえ、もうおっしゃらないでください。私、お嫂さまに、一つの証を立てますわ。鉄漿をつけます。かねてお嫂さまのお望みどおりに、私、鉄漿をつけますわ。そして、お嫂さまと一緒に、どこへなりと、お好きな夢の国にまいりますから……」
そして、相手が何も云わぬのに、独り合点して、いつか滝人が忘れていった、早鉄漿の壺に鏡を取り出してきた。そして立膝にした両足を広く踏み開き、小指にちょんぴりとつけた黒い脂で、前歯に軽く触ると、時江はその一点の斑にさえ、自分の裸身を見るような驚異を感じた。それが秘密な部分にある黒子みたいで、ちょっと指先で持ち上げたいような、可笑しさはあったけれども、やがてその黒い斑点が拡がりゆくにつれて、時江はハッハッと獣のような息を吐きはじめ、腰から上をもじもじ廻しはじめた。のみならず、一本芯の洋燈は仄暗いけれども、その光が、額から頬にかけて流れている所は、キメをいっそう細やかに見せていた。もう時江は、自分自身でさえも、その媚めいた空気に魅せられてしまって、鉄漿をつける小指の動きを、どうにも止めようがなくなってしまった。