Japanische Klassiker mit Furigana
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わたしのおぼえがき
私の覚え書
宮本 百合子
Lesen Sie 私の覚え書 (わたしのおぼえがき) von 宮本 百合子 (みやもとゆりこ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 8.746 Zeichen · 18 Bildschirme
列車の下から追い出したのが何であったか、それをどう始末したか、結着のつかないうちに、汽車は前進し始めた。
高崎から、段々時間が不正確になり、遅延し始めた。軍隊の輸送、避難民の特別列車の為め、私共の汽車は順ぐりあと廻しにされる。貨車、郵便車、屋根の上から機関車にまでとりついた避難民の様子は、見る者に真心からの同情を感じさせた。同時に、彼等が、平常思い切って出来ないことでも平気でやるほど女まで大胆になり、死を恐れない有様が、惨澹たる気持を与えた。一つとして、疲労で蒼ざめ形のくずれていない顔はないのに、気が立っている故か、自暴自棄の故か、此方の列車とすれ違うと、彼等は、声を揃えてわーっと熾んな鯨波をあげる。気の毒で、此方から応える声は一つもしなかった。
けれども、家の安否を気遣う人々は、東京から来た列車が近くに止ると、声の届くかぎり、先の模様を聞こうとする。
「貴方は何方からおいでです?」
「神田。」
「九段のところは皆やけましたか?」
「ああ駄目駄目! やけないところなし。」
又は、
「浅草は何処も遺りませんか?」
避難者の男は、黙って頭で、遺らないと云う意味を頷く。