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Japanische Klassiker mit Furigana

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わたしのおぼえがき

私の覚え書

宮本 百合子

Lesen Sie 私の覚え書 (わたしのおぼえがき) von 宮本 百合子 (みやもとゆりこ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 8.746 Zeichen · 18 Bildschirme

Aozora Bunko

ふだんは、何となくぼやけ、人と人との感情問題等もそう切迫してはいないが、左様な大事に面し、其れがどう展開して行くか。自分の運命の在り場所が、深い、宏い海の底を覗き桶で見るように、私にわかった。遙かな東京の渾沌、燼灰、死のうとする人々の呻きの間から、私は、何か巨大な不可抗の力を持ったものが犇々と自分に迫って来るように感じた。その気持を、ぐっと堪えながら、自分のすべきことは忘れまいとするのは、努力であった。

午後から良人は福井市に出、大宮までの切符と持って行くべき食糧の鑵詰類を買い入れて来た。役場から、入京に必要だと云う身分証明書を貰った。そして、四日の午後四時五十七分、総ての荷物を郷里に遺し、ただ食糧だけを二人で背負う振り分けの荷に作って、福井を出発した。福井市の彼方此方では、当局者の所謂流言蜚語が、実に熾んで、血腥い風が面を払うようであった。もう二三十分で列車が出る時になっても、家兄は私の体を案じ、止ることをすすめた。私は、半分冗談、半分本気で、

「大丈夫よ。私はちっとも可愛くないから、これで髪をざんぎりにし、泥でも顔へぬれば、女だと思う者はないでしょう」