Japanische Klassiker mit Furigana
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しほんたいへいき
私本太平記
吉川 英治
Lesen Sie 私本太平記 (しほんたいへいき) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 116.638 Zeichen · 233 Bildschirme
――それにつれて、大床の中ほどへすすみ出た観世清次は白の小袖に白地に銀摺の大口袴を穿き太刀を横たえ、尉の仮面をつけていた。
驚くべきことには、仮面は余りにも正成の顔に生写しだった。しかし、いわれなきことではない。これは湊川へのぞむ前のあの哀しい諦観と苦憂の半ばにあって、ただ永劫へかけての和と人の善智とを信じようとしていた当時の正成を、仮面師赤鶴が一心に鑿に写しとっておいたあの一作であったのだ。
地謡を謡う顔も、笛をふく白い顔も、いつかみな濡れていた。舞は湊川の矢たけびをここに呼び、討つ者、討たれる者の、ひとしいあわれさやら、矛盾の世が生んだ矛盾の子尊氏と、悲心のひと正成の祈りとを、清次の一つ姿に、足拍子もとどろに描き――そして舞い終ってもなおなかなか終る気色はなかった。
「みな琵琶を把り給え」
と、検校の声がかかっていたからである。四十余面の琵琶は、ただ松風と浪音の宇宙のひびきを一せいに奏で出し、連れて、笛はさけび、つづみや太鼓もまた、清次のすがたをかりて地上の人みなの平和の願いを打ち囃すがごとくであった。なんらの違和もない不思議な楽のあらしとなって。