Japanische Klassiker mit Furigana
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くうそうにちろく
空想日録
寺田 寅彦
Lesen Sie 空想日録 (くうそうにちろく) von 寺田 寅彦 (てらだとらひこ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 10.488 Zeichen · 21 Bildschirme
命取りの強敵はもう深く体内に侵入しているがそんなことは熊にはわからない。またあわてて駆け出す。わけはわからないが本能的に敵から遠ざかるような方向に駆け出すのである。右の腰部からまっ黒な血がどくどく流れ出して氷盤の上を染める。映画では黒いだけのこの血が実際にはいかに美しく物すごい紅色を氷海のただ中に染め出したことであろう。そのうちにまたいくつかの弾をくらったらしい。いくら逃げても追い駆けて来る体内の敵をまくつもりで最後の奥の手を出してま近な二つの氷盤の間隙にもぐり込もうとするが、割れ目は彼女の肥大な体躯を容れるにはあまりに狭い。この最後の努力でわずかに残った気力が尽き果てたか、見る見るからだの力が抜けて行って、くず折れるようにぐったりと横倒しに倒れてしまう。一方ではまた、何事とも知れぬ極度の恐怖に襲われて、氷塊の間の潮水をもぐって泳ぎ回る可憐な子熊もやがて繩の輪に縛られて船につり上げられる。そうして懸命の力で反抗しあばれ回る。「ひどく一同を手こずらせた」と探険隊長の演説の中でも紹介されているが、これは子熊の立場からは当然のことであろう。あばれる子熊の横顔へ防寒長靴をはいた人間の足がいくつも飛んで来る。