Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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くさもみじ

荷風随筆集(下)

永井 荷風

Lesen Sie 荷風随筆集(下) (くさもみじ) von 永井 荷風 (ながいかふう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 30.512 Zeichen · 63 Bildschirme

Aozora Bunko

或晩舞台で稽古に夜をふかしての帰り道、わたくしは何か口ざむしい気がして、夜半過ぎまで起きている食物屋を栄子にきいた事があった。栄子は近所に住んでいる踊子仲間の二、三人をもさそってくれて、わたくしを吉原の角町、稲本屋の向側の路地にある「すみれ」という茶漬飯屋まで案内してくれたことがあった。水道尻の方から寝静った廓へ入ったので、角町へ曲るまでに仲の町を歩みすぎた時、引手茶屋のくぐり戸から出て来た二人の芸者とすれちがいになった。芸者の一人と踊子の栄子とは互に顔を見て軽く目で会釈をしたなり行きすぎた。その様子が双方とも何となく気まりが悪いというように、また話がしたいが何か遠慮することがあるとでもいうように見受けられた。角町の角をまがりかけた時、芸者の事をきくと、栄子は富士前小学校の同級生で、引手茶屋何々家の娘だと答えたが、その言葉の中に栄子は芸者を芸者衆といい、踊子の自分よりも芸者衆の方が一だん女としての地位が上であるような言方をした。これに依って、わたくしは栄子が遊廓に接近した陋巷に生れ育った事を知り、また廓内の女たちがその周囲のものから一種の尊敬を以て見られていた江戸時代からの古い伝統が、昭和十三、四年のその日までまだ滅びずに残っていた事を確めた。