Japanische Klassiker mit Furigana
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とうじゅうろうのこい
藤十郎の恋・恩讐の彼方に
菊池 寛
Lesen Sie 藤十郎の恋・恩讐の彼方に (とうじゅうろうのこい) von 菊池 寛 (きくちかん) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 37.146 Zeichen · 74 Bildschirme
が、それにも拘らず、声と動作とは、恋に狂うた男に適しい熱情を、持っている。
「のう、お梶どの。そなたは、この藤十郎の恋を、あわれとは思さぬか。二十年来、堪え忍んで来た恋を、あわれとは思さぬか。さても、強いお人じゃのう」こう云いながら、藤十郎は、相手の返事を待った。が、女はよよと、すすり泣いているばかりであった。
灯を慕って来た千鳥だろう。銀の鋏を使うような澄んだ声が、瀬音にも紛れず、手に取るように聞えて来る。女も藤十郎も、おし黙ったまま、暫くは時刻が移った。
「藤十郎の切ない恋を、情なくするとは、さても気強いお人じゃのう、舞台の上の色事では日本無双の藤十郎も、そなたにかかっては、たわいものう振られ申したわ」と藤十郎は、淋しげな苦笑を洩した。
と、今まで泣き俯していた女は、ふと面を上げた。
「藤様、今仰った事は、皆本心かいな」
女の声は、消え入るようであった。その唇が微かに痙攣した。
「何の、てんごうを云うてなるものか、人妻に云い寄るからは、命を投げ出しての恋じゃ」と、いうかと思うと、藤十郎の顔も、さっと蒼白に変じてしまった。浮腰になっている彼の膝が、かすかに顫いを帯び始めた。