Japanische Klassiker mit Furigana
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しんきろう
蜃気楼
Lesen Sie 蜃気楼 (しんきろう) von Akutagawa Ryūnosuke (芥川 竜之介) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 4.624 Zeichen · 10 Bildschirme
「砂のせいですね。そうでしょう?」
妻は両袖を合せるようにし、広い砂浜をふり返っていた。
「そうらしいね。」
「砂と云うやつは悪戯ものだな。蜃気楼もこいつが拵えるんだから。………奥さんはまだ蜃気楼を見ないの?」
「いいえ、この間一度、――何だか青いものが見えたばかりですけれども。………」
「それだけですよ。きょう僕たちの見たのも。」
僕等は引地川の橋を渡り、東家の土手の外を歩いて行った。松は皆いつか起り出した風にこうこうと梢を鳴らしていた。そこへ背の低い男が一人、足早にこちらへ来るらしかった。僕はふとこの夏見た或錯覚を思い出した。それはやはりこう云う晩にポプラアの枝にかかった紙がヘルメット帽のように見えたのだった。が、その男は錯覚ではなかった。のみならず互に近づくのにつれ、ワイシャツの胸なども見えるようになった。
「何だろう、あのネクタイ・ピンは?」
僕は小声にこう言った後、忽ちピンだと思ったのは巻煙草の火だったのを発見した。すると妻は袂を銜え、誰よりも先に忍び笑いをし出した。が、その男はわき目もふらずにさっさと僕等とすれ違って行った。
「じゃおやすみなさい。