Japanische Klassiker mit Furigana
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くものゆめ
蜘蛛の夢
岡本 綺堂
Lesen Sie 蜘蛛の夢 (くものゆめ) von 岡本 綺堂 (おかもときどう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 147.189 Zeichen · 298 Bildschirme
まだその頃のことであるから、床の間には昔を忘れぬ大小が掛けてある。すわといえばそれを引っさげて跳り出すというわけであった。
ことしはかなりに残暑の強い年であったが、今夜はめずらしく涼しい風が吹き渡って、更けるに連れて浴衣一枚ではちっと涼し過ぎるほどに思われた。月はないが、空はあざやかに晴れて、無数の星が金砂子のようにきらめいていた。夜ももう十二時を過ぎた頃である。庭のどこかでがさがさという音が低くひびいた。それが夜風になびく草の葉ずれでないと覚って、父は雨戸の隙き間から庭の方に眼をくばっていると、その音は一カ所でなく、二カ所にも三カ所にもきこえるらしい。
「獣だな。」と、父は思った。やはり自分の想像していた通り、のら犬のたぐいが忍び込んで何かの餌をあさるのであろうと想像された。
しかし折角こうして張番している以上、その正体を見届けなければ何の役にも立たない。そうして、その正体をたしかに説明して聞かせなければ、女どもの不安の根を絶つことは出来ない。こう思って、父はそっと雨戸を一枚あけて、草履をはいて庭に降りた。縁の下には枯れ枝や竹切れがほうり込んであるので、父は手ごろの枝を持ち出して静かにあるき始めた。