Japanische Klassiker mit Furigana
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こうもり
蝙蝠
岡本 かの子
Lesen Sie 蝙蝠 (こうもり) von 岡本 かの子 (おかもとかのこ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 11.107 Zeichen · 23 Bildschirme
蝙蝠来い
簑着て来い
行燈の油に火を持って来い
……………………
仲間の子供たちが声を揃えて喚き出したので、お涌も井戸端から離れた。
空は、西の屋根瓦の並びの上に、ひと幅日没後の青みを置き残しただけで、満天は、紗のような黒味の奥に浅い紺碧のいろを湛え、夏の星が、強いて在所を見つけようとすると却って判らなくなる程かすかに瞬き始めている。
この時、落葉ともつかず、煤の塊ともつかない影が、子供たちの眼に近い艶沢のある宵闇の空間に羽撃き始めた。その飛び方は、気まぐれのようでもあり、舵がなくて飛びあえぬもののようでもある。けれども迅い。ここに消えたかと思うと、思わぬ軒先きに閃めいている。いつかお涌も子供達に交って「蝙蝠来い」と喚きながら今更めずらしく毎夜の空の友を目で追っていると、蝙蝠も今日の昼に水替えした井戸の上へ、ひらひら飛び近づき、井戸の口を覗き込んではまた斜に外れ上るように見える。お涌は蝙蝠が井戸の中の新しく湧いた水を甞めたがっているのかとも思った。ふと、今しがた自分が覗いた生々として落ちついた井の底の世界を、蝙蝠もまた、あこがれているのではあるまいか――