Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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おどるちへいせん

踊る地平線(上)

谷 譲次

Lesen Sie 踊る地平線(上) (おどるちへいせん) von 谷 譲次 (たにじょうじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 168.926 Zeichen · 332 Bildschirme

Aozora Bunko

何か荘厳な宗教上の儀礼をいとなんでいる時の高僧のような女の顔と、しずかに水を飲んでいる私の靴とを鏡のなかに見ていると、その妖異さはわけもなく私から呼吸を奪って、そうそうたる水音が部屋を占めるなかで、私は冷たい床板に一そうぴったりと身を貼りつけた。

ひたひたに水をつぎおわると、すっかり安心したらしい女は、かすかな足音とともに部屋を出て行った。あとには私の靴が口きりに水を張って、それに窓ごしの青葉の影がこまかく揺れていた。

狂人だった。おかみさんの姉で、戦争で良人をなくしてから気がへんになっているのだった。二階の一室に監禁同様にして、しじゅうおかみさんが気をつけて私たちにはひた隠しにしていたのだが、そっと抜け出て来ては、靴に水をそそぐことにのみ、狂える女は異常な興味を感じていたものらしい。じつはこの姉なる人が原因で、下宿人もいつかなかったのだ。私たちはすこしも知らずにいたが、近処ではとうから評判の家だった。

私は、妻の神経と私の靴を保護するために、その日のうちに引越した。出がけに振りかえってみると、私たちのいた二階の窓から、小さな蒼いレムのしかめ面が私たちをめがけて突き出ていた。