Japanische Klassiker mit Furigana
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とおのへ
遠野へ
水野 葉舟
Lesen Sie 遠野へ (とおのへ) von 水野 葉舟 (みずのようしゅう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 55.903 Zeichen · 117 Bildschirme
「私はここに、いたんですよ。」
と声をかけた。
「じゃ燈火でもつけ給へ、どうかしたのかい。」
と言いながら入って行くと、暗の中に目がきらっと輝いたようで、荻原は太い急わしい呼吸をしている。
ランプがパッと着くと、荻原は今まで、柱に倚りかかっていたらしく、その顔には名状しがたいような、哀愁を含ませている。見ると涙ぐんでいるではないか。
「どうかしたのかい?」
「ああ、国のことを思ってるうちに、すっかり夜になってしまった。」と獨語のように言う。
と思うと、左の手に何か持って、それを隠そうとする。
「何だい! それは。」私はいち早く見つけて、つき込むと、仕方なさそうに、出して見せる。尺八だ。
「君はそれを吹くのかい。」
「吹くと言うほどじゃないけれど、国にいる時分に少し習ったから……」
「じゃ、それを吹いて故郷を思っていたと言うわけだね。」少し茶かしてかかると、荻原はからだの奥から沁み出すような声をして、
「いや、私はたまらなくなるから吹くのです。しかし吹くとなおたまらなくなってしまう。故郷の景色が目に見えるようで……」と言って、堅く口をつぐんでしまった。
「そんなことをこの薄暗い室の中で思っているとなおひどくなるから、外に出て見よう。