Japanische Klassiker mit Furigana
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じゅうべえさんのいっか
重兵衛さんの一家
寺田 寅彦
Lesen Sie 重兵衛さんの一家 (じゅうべえさんのいっか) von 寺田 寅彦 (てらだとらひこ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 7.089 Zeichen · 14 Bildschirme
まもなく重兵衛さんは亡くなってそのうちに息子の楠さんは細君を迎えて新家庭をつくった。新婚後まもないことであったと思う。ある日宅の女中が近所の小母さん達二、三人と垣根から隣を透見しながら、何かひそひそ話しては忍び笑いに笑いこけているので、自分も好奇心に駆られてちょっと覗いてみると、隣の裏庭には椅子を持出してそれに楠さんが腰をかけている。その傍に立った丸髷の新婦が甲斐甲斐しく襷掛けをして新郎のために鬚を剃ってやっている光景がちらと眼前に展開した。透見の女性達の眼には、その光景が、何かひどく悪い事でもしている現場を見届けでもしたように、とにかく笑うべく賤しむべきこととして取扱われているらしかった。しかし当時の自分にはその光景がひどく美しく長閑なものに思われ、そうして女中等のそういう態度に対して少なからず不満を懐いたようであった。
その後重兵衛さんの一家がどうなったか。これに関する自分の記憶は実に綺麗に拭われたように消えてしまっている。ただ、楠さんの細君が亡くなり、次にひどく酒飲みになった楠さんも若死をしたこと、亀さんが医師の家に書生をしていて、後に東京へ出て来てどこかの医者の代診をしているという噂を聞いたように思うだけである。