Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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ななこ

野菊の墓

伊藤 左千夫

Lesen Sie 野菊の墓 (ななこ) von 伊藤 左千夫 (いとうさちお) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 71.271 Zeichen · 144 Bildschirme

Aozora Bunko

「省作さん、流しましょうか」

「ええ」

「省作さんちょっと手ぬぐいを貸してくださいな」

おとよさんは忍び声でいうので、省作はいよいよ恐ろしくなってくる。恐ろしいというてもほかの意味ではない。こういう時は経験のある人のだれでも知ってる恐ろしさだ。省作は手ぬぐいをおとよさんに貸してからだを湯に沈めている。おとよさんは少し屈み加減になって両手を風呂へ入れているから、省作の顔とおとよさんの顔とは一尺四、五寸しか離れない。おとよさんは少し化粧をしたと見え、えもいわれないよい香りがする。平生白い顔が夜目に見るせいか、匂いのかたまりかと思われるほど美しい。かすかにおとよさんの呼吸の音の聞き取れた時、省作はなんだかにわかに腹のどこかへ焼金を刺されたようにじりじりっと胸に響いた。

はたして省作の胸に先刻起こった、不埒な女だとかはなはだよくない人だとか思った事が、どこの隅へ消えたか、影も形も見せないのだ。省作も今はうっとりしておとよさんに見とれるほかなかった。人の話し声も雨の音もなんにも聞こえないで、夢のような、酔ったような、たわいもない心持ちになって、心のすべて、むしろからだのすべてをおとよさんに奪われてしまった。