Japanische Klassiker mit Furigana
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くぎぬきとうきちとりものおぼえがき
釘抜藤吉捕物覚書
林 不忘
Lesen Sie 釘抜藤吉捕物覚書 (くぎぬきとうきちとりものおぼえがき) von 林 不忘 (はやしふぼう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 14.319 Zeichen · 29 Bildschirme
立ち上って覗いた藤吉、
「あっ!」
と驚いたことのない釘抜もこの時ばかりはその口から怖れと愕きの声を揚げた。無理もあるまい。線香の香の微かに漂い、燈明の燃えきった夕ぐれの部屋、仏壇前の畳に、日向の猫の欠伸のように、山の字形に蠢きながら青白く光っているのは、先刻たしかに四尺は高い供壇へ祭って置いたあの女の頬の肉ではないか。海月みたいに盛り上っては動くその耳を見ると、釘抜形に彎った藤吉の脚が、まず自ずと顫え出して、気がついた時、本八丁堀を日本橋指して藤吉は転ぶように急いでいた。
四
往昔まだ吉原が住吉町、和泉町、高砂町、浪花町の一廓にあったころ、親父橋から荒布橋へかけて小舟町三丁目の通りに、晴れの日には雪駄、雨には唐傘と、すべて嫖客の便を計って陰陽の気の物をひさぐ店が櫛比しているところから江戸も文久と老いてさえ、この辺は俗に照降町と呼ばれていた。
その照降町は小舟町三丁目に、端物ながらも食通を唸らせる磯屋平兵衛という蒲鉾の老舗があった。
明暦大火のすぐ後、浅草金竜山で、茶飯、豆腐汁、煮締、豆類などを一人前五分ずつで売り出した者があったが、これを奈良茶と言っておおいに重宝し、間もなく江戸中に広まってそのなかでも、駒形の檜物屋、目黒の柏屋、堺町の祇園屋などがことに有名であった。