Japanische Klassiker mit Furigana
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にしきぎ
錦木
宮本 百合子
Lesen Sie 錦木 (にしきぎ) von 宮本 百合子 (みやもとゆりこ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 52.481 Zeichen · 103 Bildschirme
「もういったらいいでしょう、きりがないから」
去りがたい思いをしのびながら殿は云った。
ことばに二人たち三人立ちして、たいていの人は家に入ったが、紅はまだ坐って居た。殿はこの様子をいぶかって、
「紅は大変かなしんで居て、御らん、あんなにして居る。私はもう去らなければならないけれ共、あとが少し気がかりで居るからものかげから見て居て御呉れ」
わきに居るまだ若い男に云いつけて、しずかに池の方に会しゃくをして家の中に入った。
だまって坐って居た紅は足元もあやういように立ち上った。
「ああなんでももうおしまいになってしまった、……私の望も、よろこびも、たのしみも、命までも……」
しずかにかげのようにあるき出した。物かげの男は池に身を投げはしまいかとそればかりを気にして一足うごくごとに自身も一足ずつうごいて居る。やがて足元を定めて紅はキチンとしまったかおをして家の方にあるき去った。物かげの小男はなんとなくあっけないような心持でそのあとにつづいた。
前にもました、重くるしいかなしい心持は家の中にみなぎって東の対の女達が光君のものために同じような黒い衣物を着て居るのはよけいにいたいたしかった。