Japanische Klassiker mit Furigana
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かぎやのつじ
鍵屋の辻
直木 三十五
Lesen Sie 鍵屋の辻 (かぎやのつじ) von 直木 三十五 (なおきさんじゅうご) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 12.524 Zeichen · 25 Bildschirme
「親父、じろじろと見るナ。怪しくみえるかの。武士(さむらい)と云うものは敷居を跨ぐと敵のあるものでのう。鎖帷子、ほうら鎖頭巾、どうじゃ、こうちゃんとした扮(なり)をするといい男だろうがの、今に喧嘩でもしてみろ、三人や五人ならおくれはとらぬぞ。時に亭主もっと燗を熱くしてくれ」
又右衛門は濁酒(どぶろく)の燗を熱く熱くと幾度も云ったそうである。茶屋の親仁(おやじ)だから燗の事だけは確かに明瞭(はっきり)と覚えていたにちがいない。酒を傾けながら孫右衛門は時々店先へ出て、又五郎らの来るのを見る。長田川の橋からは一本道で橋上にかかれば茶店からは一眼である。敵がそこへ現れたという合図は孫右衛門が小唄を唄う事にしてある。
「いい心持になった、亭主、この羽織をお前にくれてやろう」
「旦那様、めっそうもない……」
「ま、取っておけ、少し長いぞ」
と云ったが又右衛門の身丈(みのたけ)六尺二寸と云うのだからぞろりと着れば踵まであったかも知れない。
「亭主、わしのもくれようか」
と云って数馬も羽織をぬいだ。これは池田家第一の美男子と称された源太夫の兄である。遺伝学から云うと兄より弟の方がいい男が多いそうだが、その代り兄は甚六で多少ゆったりしているから矢張り数馬もいい男であったにちがいない。