Japanische Klassiker mit Furigana
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あごじゅうろうとりものちょう
顎十郎捕物帳
久生 十蘭
Lesen Sie 顎十郎捕物帳 (あごじゅうろうとりものちょう) von 久生 十蘭 (ひさおじゅうらん) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 15.028 Zeichen · 30 Bildschirme
「ウワ、ウワ」
としか言えない。と見ているうちに、唇のはしから、紅い棒でもたらしたように、血が顎のほうへ筋をひく。
いつ、どうして斬ったのか、唇にも歯にもふれず、左頬の内がわから、斜めうえに口蓋のほうへ、浅く斬れている。切尖がふれたわけではない。一種の気あい突き。抜刀一伝流、丸目主水正の独悟剣、刀影三寸動いて肉を斬るというやつ。
顎十郎は、泰然として懐手。長い顎をしゃくるようにしながら、
「むかし、俺が甲府勤番にいたとき、俺の前で、うっかり顎を撫でたばっかりに、ふたりまで命を落したやつがいる。いつもおどしだと思っちゃあいけない。……が、そんなこたア、まあどうでもいい。藤波さん、さっきの話のつづきをしようじゃあないか」
といって、言葉の調子をかえて、
「手前はずいぶんお節介だが、それはそれとして、手を引けの、引っこめのと、きいたふうなことを言ったことは、今までただの一度もない。それを、こういうからには、よくよくわけのあることだと思ってください。……あなたはなにもご存じないが、真実のところ、この仕事ではたしかにあなたの分が悪い。はっきりいうとあなたは飛んでもない奴の味方をしているんです。