Japanische Klassiker mit Furigana
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あごじゅうろうとりものちょう
顎十郎捕物帳
久生 十蘭
Lesen Sie 顎十郎捕物帳 (あごじゅうろうとりものちょう) von 久生 十蘭 (ひさおじゅうらん) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 18.022 Zeichen · 36 Bildschirme
今度はどうやら無事に江戸まで辿りつけそう。
諸懐手。袂を風にゆすらせながら、不知森のそばをノソノソと通りかかると、薄暗い森の中から、
「……お武家、お武家……」
たいして深い森ではないが、むかしから、この中へ入ると祟りがあると言いつたえて、村人はもちろん、旅の者も避けるようにして通る。
絶えて人が踏みこまぬものだから、森の中には落葉が堆高く積み、日暮れ前から梟がホウホウと鳴く。
仙波阿古十郎、自分では、もう侍などとはすっぱり縁を切ったつもり。いわんや、古袷に冷飯草履、どうしたってお武家などという柄じゃない。そのまま行きすぎようとすると、
「……そこへおいでのお武家、しばらく、おとどまり下さい、チトお願いが……」
こうなれば、どうでも自分のことだと思うほかはない。呼ばれたところで踏みとどまって、無精ッたらしく、
「あん?」
と、首だけをそっちへ振りむける。……いや、どうも、振るった顔で。
どういう始末で、こんな妙な顔が出来あがったものか。
諸葛孔明の顔は一尺二寸あったというが、これは、ゆめゆめそれに劣るまい。
眼も鼻も口もみな額際へはねあがって、そこでいっしょくたにごたごたとかたまり、厖大な顎が夕顔棚の夕顔のように、ぶらんとぶらさがっている。