Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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あごじゅうろうとりものちょう

顎十郎捕物帳

久生 十蘭

Lesen Sie 顎十郎捕物帳 (あごじゅうろうとりものちょう) von 久生 十蘭 (ひさおじゅうらん) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 18.022 Zeichen · 36 Bildschirme

Aozora Bunko

沼をかこむ丘の斜面のところどころに四阿や茶室が樹々のあいだに見え隠れし、沼の西側は広々としたお花畑で、色とりどりの秋草が目もあやに咲き乱れている。

顎十郎は、呆気に取られて眺めていると、花畑と反対の並木路のほうに人の跫音がする。

「おッ、こいつあいけない。こんなところで捕ったら、首がいくつあったって足りはしない、どこか身を隠すところがないかしら」

どこもここも見透しで、これぞといって身を隠す場所がない。そのうちに、すぐそばの数寄屋の庭先に二抱えほどもある大きな古松が聳えているのに眼をつけ、

「こうなりゃあ、しょうがない、あの松の枝のあいだにでも隠れるほかはない」

走り寄って幹に手をかけ、スルスルとよじのぼり、中段ほどの葉茂みの中に身を隠してホッと息をついていると、枝折戸をあけて静かに入って来た、三十五六の、精悍な眼つきをした一人の男。

松坂木綿の着物を着流しにして茶無地木綿の羽織を着ている。身体つきは侍だが、服装は下町の小商人。妙なやつがやってきたと思って眺めていると、その男は数寄屋の濡縁に近い庭先へ三つ指をつき、右手を口にあてて、えへん、えへんと二度ばかり軽く咳払いをした。