Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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さかなのじょぶん

魚の序文

林 芙美子

Lesen Sie 魚の序文 (さかなのじょぶん) von 林 芙美子 (はやしふみこ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 10.384 Zeichen · 21 Bildschirme

Aozora Bunko

さすがに、風格も堂々としていて、五十幾ツかの部屋を見終った時の僕の頭の中には、ただ壁だけがぐるぐる廻っていた。

老女中は、僕を玄関へ送り出すと、「お荷物を早くお送りなさいまし、女手が多いのですから片づけといて上げます」僕は僕の部屋になるのだと云う書生部屋もさっき見た。高窓が一ツに壁上には、判読するに困難な字が掛けてあった。あの洗い流したように古びた畳の色など、僕にはもう縁なき衆生であるかも知れぬ。

「前にいた書生さんは、この高窓からばかりカチカチカカチなんて拍子木を打つんでしょう、そりゃアおかしい人でしたよ。自分が恐いんで近所の野良犬を五六匹も集めたりしていたンですの……」

僕は、無意味な壁ばかりを見て歩いた事をひどく後悔した。人の住まっていない無数の壁を警護するために、彼女と離れて別れてまで暮す心はない。では、どうして食って行くのだ。「浮世には思い出もあらず」また墓標の裏の言葉が胸を突いて出た。――我々置き去りにされたインテリはいったいどうすればいいのだ。人生はまるで今日見たあの壁の中みたいじゃないか、あッちを向いても、こっちを向いても、壁々、壁だ、壁なのだ。