Japanische Klassiker mit Furigana
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なるとひちょう
鳴門秘帖(一)
吉川 英治
Lesen Sie 鳴門秘帖(一) (なるとひちょう) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 262.100 Zeichen · 523 Bildschirme
「あ、行き止まりか……」と孫兵衛。雑草の中から、覗いてみると、下は、関の古跡の裏街道、峨々たる岩の根に添って、海のような竹林がつづいている。そして、その一帯な竹林の中から、古い塔の水煙や、阿弥陀堂の屋根や、鳥居のあたまが浮いている。
「畜生! あんな所にいやがった」不意に、草むらへ、身を屈めた孫兵衛は、かまきりのように、ソロリと根を分けて、その崖ぎわを進みだした。
お綱がいる! すぐ十間ばかりの向うの所に。
そこには、いッぱいな、蛍草が咲いていた。お綱は、後ろから、お十夜が近づいてくるとは知らずに、藍をこぼしたような花に埋まって寝ころがり、鬢を、夕風になぶらせて、吾をも忘れている眼ざし……誰に女の掏摸と見えよう。
ここから見下ろせる竹むらの辺り、どことも知れず尺八の音が響いてくる――月夜の晩にひいた風邪、お綱は、それに聞きとれているらしい。
しかし、孫兵衛の瞋恚の耳には、そんな、かすかな旋律がふれても、心にはとまらなかった。息をこらして草むらを匍いだし、お綱のうしろにヌッと立った。
それでも、お綱は気がつかない……。
お十夜の口が、夜叉のように噛み締まった。