Japanische Klassiker mit Furigana
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なるとひちょう
鳴門秘帖(一)
吉川 英治
Lesen Sie 鳴門秘帖(一) (なるとひちょう) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 262.100 Zeichen · 523 Bildschirme
おお自分は冷血だ、銀五郎のあの熱血のほとばしる頼みも、恋人の不幸な境遇をも捨てて顧みないこの法月弦之丞は、冷血と罵られても、それを言い解くことのできない男だ。
そのくせ、お千絵様という名を、自分は片時も忘れてはいない。昔にかわらぬ――いや、あの頃よりは、なおさら強い恋は不断に燃えているのだ。
「ああ……」松の根方へ腰を落して、じっと額を膝がしらに伏せた弦之丞には、いつか、抱きしめている尺八が、お千絵様そのもののように思いなされて、恋人の棲む駿河台の墨屋敷や、なつかしい江戸の風物までが瞑想の霧に描きだされてくる。
しかし、法月弦之丞の胸には、どうしても、その愛着のある江戸の土を踏むことのできない事情が潜んでいた。
そうしたわけがあればこそ、彼は、家を捨て、恋人を捨て、江戸から外の世間を、旅から旅へと漂泊しているのである。
帰るに帰られぬ江戸の空。折にふれ時にふれ、思慕の悩みを送る尺八の音は、お千絵様の夢に通うこともあろうけれど、銀五郎はそれを知らなかった。いや、銀五郎のみでなく、多情多感な青年剣客法月弦之丞の心に秘めている人間苦のせつなさを知る人はないのである。