Japanische Klassiker mit Furigana
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なるとひちょう
鳴門秘帖(一)
吉川 英治
Lesen Sie 鳴門秘帖(一) (なるとひちょう) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 262.100 Zeichen · 523 Bildschirme
中の一人が、こう答えた。
「あの者のほうは、捕える時に深傷を負わせてございませんから、まず御懸念には及びませぬ」
「そうか……」
九鬼はうなずいて、一角と啓之助が立っている岩の側へ歩みだした。
その時、天堂一角は、腕ぐみをしたまま、峠の七曲りを見下ろしていたが、何を見出したものか、眉に険を立てて、にわかにただならぬ色を現した。
「悪い所へ……」一角は舌うちを鳴らして、
「誰かここへ登ってくる」と、ひそめた眉のあたりへ手をかざした。
「高野詣りか三塔の行者か……それともただの通行人か、なにしろ四、五人でございますな」
それをうけて、森啓之助がつぶやくと、九鬼弥助も側に立って伸び上がりながら、
「なるほど!」と同じほうへ眼を据えた。そして三人とも、しばらくの間、峠の上り道からここへ指してくる人影を眺めていたが、そのうちに九鬼弥助が一笑に附して、
「まさか追手ではありますまい」
「無論、そんな者でないことは分っているが……」と一角は注意ぶかい容子で、あたりにいる侍たちへも聞かすように、
「ただの旅人にいたせ、かような態を見れば、何かと眼をそばだてて行くに相違ない。万一、蜂須賀家の者と知られて、世間へ噂いたされては後日の不為であろう。