Japanische Klassiker mit Furigana
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なるとひちょう
鳴門秘帖(一)
吉川 英治
Lesen Sie 鳴門秘帖(一) (なるとひちょう) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 262.100 Zeichen · 523 Bildschirme
夢中で走りだしたお米の眼の前にザブーンとすごい波音がして、雨のような水玉が、陸の上まで飛び散ってきた。
「助けて下さい――召使が突き落された! あれ! 流れて行きます。誰か来て――ッ」必死に人を呼ぶその口へ、何者か、大きな掌を蓋してしまった。そして羽交締めに強く抱きすくめた。お米の指が離そうともがく、抱えた両手の力は強い。折も悪く、早や逢魔ガ刻に近い九条堤、人通りも絶えている。
「騒いではならぬ。こりゃお米殿、案じた者ではないによって、少しの間静かにしているがよい」
「オ! その声は、ケ、啓之助様……」
「手を離して進ぜるが、逃げてはならぬぞ。逃げる影へは思わず刀が追いかけたがる」
「く、苦しい……」
「宅助、すまぬが、しばらくの間、向うの堤に立って、人通りを見張っていてくれ」
「切のうござんす……も、森様、逃げは致しませぬから、この、この乳の上の手を早く離して下さいませ」
「そうだ、そなたの病気はここにあったの。うッかり肺臓へ力を入れて、さだめし胸が苦しかったであろう。ゆるしてくれ。これというのも一念にそちを想う煩悩盲目、悪い心でしたのではない」
「エエ、何ぼ何でも、罪もない女中を河へ突き落して、その上こんなご無態は、あんまりでございます」