Japanische Klassiker mit Furigana
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なるとひちょう
鳴門秘帖(一)
吉川 英治
Lesen Sie 鳴門秘帖(一) (なるとひちょう) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 262.100 Zeichen · 523 Bildschirme
その虫の音がフトやむと、
「殿……」
庭先の踏石へ、一人の家臣がうずくまった。
「何じゃ?」
阿波守は盤面から目も放たない。
「明日お出船に相成ります、卍丸のことについて、ちと御意を得たいと存じまして」
「何じゃと申すに」
「船中お屋形の御調度の物」
「ウム」パチリ! と打って、「ウム……」後の手を考えている。
「例年の通りにてよろしゅうござりましょうか」
「啓之助に任せておけ、森に」
「は、京都よりのお荷物は、あれだけで余の物はござりませぬか」
「ない」
「それから、汐の都合で、卍丸は明日の暁に纜綱を解きまする。これは森様よりのお言葉、殿にも何かのお支度、今宵のうちに願わしゅう存じます」
「ウム……。分っている」
家来の者が、礼をして立ち去りかけると、
「あ、待て!」と呼んで、阿波守初めて短檠の光を顔にうけてこちらを向いた。
「京都よりおしのびの方達はまだ見えぬか」
「は、まだ御着邸なさりませぬ」
「申しつけてはあるが、見えられたらすぐここへ」
「心得ております」
しばらくするとまた虫の音と碁石の音。
竹屋三位卿は、年まだ十八の頃、かの宝暦変の陰謀にくみして、徳川討つべしを熱叫したため、真ッ先に幕府から睨まれた公卿である。