Japanische Klassiker mit Furigana
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なるとひちょう
鳴門秘帖(一)
吉川 英治
Lesen Sie 鳴門秘帖(一) (なるとひちょう) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 262.100 Zeichen · 523 Bildschirme
「ウウム、いるらしいよ」と半斎、無心の筆で、鬼の頭をバサリと描いた。
「じゃ私、これからそこへ行ってみようかしら……」
「あしたにおし、明神様のあたりは真っ暗だからの」
「時雨堂なら、よく知っているから大丈夫でございますよ」とすぐにお米が門を出だしたので、半斎は慌ててうしろへ声を送った。
「おいおい、お米や」
「あい」
「お前はこッちへ来て寝なくっちゃいけないぜ」
「分ってますよ」ちょッと邪慳に眉をひそめて、もうあらかたとざした宿を急ぎ足に、関明神の石段の下まで来た。逢坂山の杉木立が魔のように見えて、ごうッと遠い風音も常なら気味の悪い筈だが、お米の今は体の疲れも何の怖さも知らないのだった。
夜気冷やかに瞬いている二基の常夜燈。ささ流れを跨いで竹林の小道へ入ると、水の声でもない笹の葉のそよぎでもない、耳覚えのある尺八の音……時雨堂から洩れてくる。
その一節切の竹の音は、吹く人のすさびでも聞く者の興でもなく、病人の苦痛を忘れさせて眠りに導くためであったとみえて、やがて一つの曲が終ると、
「銀五郎、どうやら多市は寝たようじゃの」
と、お米の胸を沸き返す、法月弦之丞その人の声がする。