Japanische Klassiker mit Furigana
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さとう
麻布襍記 ――附・自選荷風百句
永井 荷風
Lesen Sie 麻布襍記 ――附・自選荷風百句 (さとう) von 永井 荷風 (ながいかふう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 37.256 Zeichen · 77 Bildschirme
小説家ゾラはドレフュー事件について正義を叫んだ為め国外に亡命したではないか。然しわたしは世の文学者と共に何も言わなかった。私は何となく良心の苦痛に堪えられぬような気がした。わたしは自ら文学者たる事について甚しき羞恥を感じた。以来わたしは自分の芸術の品位を江戸戯作者のなした程度まで引下げるに如くはないと思案した。その頃からわたしは煙草入をさげ浮世絵を集め三味線をひきはじめた。わたしは江戸末代の戯作者や浮世絵師が浦賀へ黒船が来ようが桜田御門で大老が暗殺されようがそんな事は下民の与り知った事ではない――否とやかく申すのは却て畏多い事だと、すまして春本や春画をかいていた其の瞬間の胸中をば呆れるよりは寧ろ尊敬しようと思立ったのである。
かくて大正二年三月の或日、わたしは山城河岸の路地にいた或女の家で三味線を稽古していた。(路地の内ながらささやかな潜門があり、小庭があり、手水鉢のほとりには思いがけない椿の古木があって四十雀や藪鶯が来る。建込んだ市中の路地裏には折々思いがけない処に人知れぬ静かな隠宅と稲荷の祠がある。)その時俄に路地の内が騒しくなった。溝板の上を駈け抜ける人の跫音につづいて巡査の佩剣の音も聞えた。